局地的な戦況の変化は、急激かつ無秩序であったので、ラインハルトやヤンでさえ、そのすべてに対応することは不可能だった。指示を与えても、それが伝達されるまでに状況が変化してしまうので、結局のところ、意味をなさないのである。帝国軍の最前線から、いかに動くべきかご指示を請う、との報がもたらされるとラインハルトの蒼氷色の瞳に雷光がひらめいた。
「それぞれの部署において対応せよ!何のために中級指揮官がいるのか。何もかも私がしなくてはならないのか!?」
一方、同盟軍の状況も、帝国軍のそれと比較してましとは言えなかった。細部にわたる指示を最前線の指揮官が求めてきたとき、ヤンはため息をついて答えた。
「そんなことは敵と相談してやってくれ。こちらには何の選択権もないんだから」
(解説)
どんな優れた経営者でも、大組織になってしまえば、全て見切れないことがあってもやむを得ない。中級指揮官が元帥に、ということになると、係長や課長が、部長を通り越して、直接社長に、指示を仰ぐという事であろうか。
そもそもまず、現場がお伺いを立てなければならないのは、一スタッフであれば、係長や課長であろうし、係長や課長であれば、まずは部長であろう。そして、部長がお伺いを立てるとしたら、取締役ではないだろうか。取締役でも迷ったら、確かに代表に聞かざるを得ないが、よほどのことがない限り、取締役が判断してくれということになるだろう。
経営者にカリスマ性があると、部下が頼り切ってしまうが、そうは言っても、係長や課長クラスが代表に直接というのは、中小企業でない限りは難しい。中小企業レベルであれば、直接聞いてしまった方がいいということもある。だが、やはり、指示を仰ぐには、なるべく直接の上司とやり取りをさせるという指揮命令系統を確立させておいた方が良い。一度飛び越える癖をつけてしまうと、直接の上司を無視する結果となり、組織上問題となる。
一度、中間管理職を飛ばすと、色々な方面から直接指示を仰ごうとしてしまうだろう。ラインハルトも言っているが、「それぞれの部署で対応せよ」と突き放そう。さすがにヤンのように「敵と相談してくれ」はギャグでしかないが。
(教訓)
〇現場レベルの話は、それぞれの部署で対応するようにさせろ。
〇一度、直接の上司を飛び越える癖をつけてしまうと、指揮命令系統がおかしくなる。