ささやかなものではあるが、ラインハルトにも幕僚集団が付随しており、作戦、航法・運用、情報・索敵、後方の四部門に分かれて、合計10名の士官が、若すぎる指揮官を補佐していた。当然ながら、全員がラインハルトより年長で、それぞれの部門においては知識もあり、処理のノウハウも心得ていた。将来、ラインハルトが巨大な集団を動かすようになった時、彼らはなお有為であるだろうか。
だが、ラインハルトは、彼らに期待するところがなかった。彼は人材を求めている。彼自身と今一人の人物しか知らない目的を達成するために、ラインハルトを補佐する人材が必要だった。ラインハルトのために策を当て、それを実行する、様々な型の人材が必要だった。だから押し付けられた幕僚に対しても、その才能や性格を正しく把握するように、これまで努めてきた。ラインハルトにとって、人材とは、宝石や黄金等よりはるかに貴重なものであった。努力は、だが、失望によって報われた。
ラインハルトが見出したのは、虫に喰われて空洞化した朽木ばかりであった。・・・
「まあ、とにかく無能な戦友どもに邪魔されぬうち、さっさと、俺の主導権を確立しよう。まず屋根と柱だ。床と壁は、後からでいい」
(解説)
戦艦の編成というものがあって、例えば、戦艦を運用するにあたっては、艦長、副長、砲雷科、船務科、航海科、機関科、補給科、衛生科等により編制されている。これをラインハルトが全て一人でできるわけではないのだから、ラインハルトの右腕になるような人材がいないことを嘆いているが、目立たずに縁の下の力持ちをやる人材も不可欠なのだ。
一応、ラインハルトも、策を立て、実行する様々な型の人材が必要だった、それを色々な人材の中から見つけていたとあるが、その心がけは素晴らしい。そうは言っても、中々、そんな優秀な人間にぶち当たるというのは、奇跡に近いと思った方がいい。むしろ、そのような優秀な人材を見つけるためには、まず自分が他人から優秀だと思われなければならない。
たいした人材がいない、と嘆いているとしたら、まだその優秀な人材を周囲に集めるだけのオーラを自らが発していないと思った方がいいだろう。ただ、どのような場所に転がっているかわからない。探し続けるという姿勢が大事だ。
ラインハルトも言うが、組織固めをする際には、屋根と柱は早めに集めた方がいいが、床や壁は後で良い。全ての人材が、同時期に集まるわけでもない。コアな人材だけは、なるはやで。骨組みができてしまえば、床や壁なんてのはどうにでもなる。
(教訓)
〇冴えないかもしれないが、言われたことを淡々とこなす縁の下の力持ちも組織には重要だ。
〇どんなところに掘りだし人材がいるかわからないので、先入観を持たずに探せ。
〇周囲に優れた人材がいないという場合は、自分が優れていると思われていないからである。
〇組織固めをする際には、屋根や柱のようなコア人材となる者を優先的に探せ。