「ビッテンフェルト提督が謹慎している間、黒色槍騎兵の指揮監督は、卿に委ねる。」
「お言葉ですが、軍務尚書。小官はよろしいのですが、黒色槍騎兵の将兵が承知しますまい。彼らに取って指揮官とはビッテンフェルト提督ただひとりのはずですから」
「ミュラー提督らしからぬ不見識だ。黒色槍騎兵は帝国軍の一部隊。ビッテンフェルト提督の私兵ではあるまい」・・・
「軍務尚書はご自信をお持ちのようだが、人質を盾に開城を迫るような手段を、誇り高い皇帝がご承知になるでしょうか。我らに艦隊を率いさせ、この地まで派遣なさったからには、皇帝の御意は堂々たる正面決戦にあること、明らかではありませんか。軍務尚書は、敢えてそれを無視なさると?」
「その皇帝の誇りが、イゼルローン回廊に数百万将兵の白骨を朽ちさせる結果生んだ」
(解説)
ビッテンフェルトがオーベルシュタインに殴り掛かろうとして、ミュラーとワーレンがビッテンフェルトを止めた。オーベルシュタインはビッテンフェルトの謹慎を命じた。
黒色槍騎兵はビッテンフェルトの部隊である。私兵ではないが、慣れている。やはり慣れたチームの方が良い。いきなり、慣れない部隊を率いるのは、そのリーダーも大変だが、部下も大変だ。阿吽の呼吸がその上司と部下の間にあるのだ。
それはビジネスパートナーも同じである。同じ空間で呼吸をしていると、こちらが何も言わなくても相手が何を考えているかはよくわかる。こちらが何か言わないと相手が理解しないというのは、それほど仲が良くない証拠でもある。
スポーツの世界でよく阿吽の呼吸と言われる。サッカーで得点が決まるときは、この阿吽の呼吸によるスーパープレーが多い。アシストをする選手が、パスを出したいところに、必ずストライカーがいる、そんな関係。
これは2人以上の人が何かをする時の微妙な気持ちや考え、それがぴたりと合う様子を意味する。言葉を交わさなくても意思が疎通できており、息が合うということだ。
実はこの阿吽とは、阿:宇宙の始まり、吽:宇宙の終わりを示す、つまり、始まりと終わりは切っても切り離せないことを意味する。
それでミュラーは、自分なり、ビッテンフェルトがオーベルシュタインの元を皇帝の命令で訪れたということは、正面攻撃をするためである、その皇帝の意図を無視されるおつもりかと説くわけだが、ラインハルトとオーベルシュタインにはいわゆる阿吽の呼吸がないということになる。
阿吽の呼吸のない所に組織としての熟成は見られない。何も言わなくてもわかる組織を目指したいところだ。もちろんこれは理想論であって、言わなければわからないこともある。自分が何も言わなくてもわかる人間を増やしていくことが経営者の役目なのだろう。
(教訓)
〇チーム内の阿吽の呼吸を熟成させよ。
〇経営者が言わなくてもわかる人材を増やしていけ。