「軍務尚書に、伺いたいことがある」
「伺おう、ビッテンフェルト提督、但し手短に、かつ理論的に願いたい」
「では単刀直入に伺おう。わが軍の内外に流れる噂によれば、軍務尚書が多数の政治犯、思想犯を収監する理由は、奴らを人質にして、イゼルローン軍に開城を迫るためだという。戦力に勝るわが軍が、そのような卑劣な手段に訴えるとは信じたくないが、この際、軍務尚書ご自身の口から、真偽のほどを伺いたい。如何?」
オーべルシュタインは冷静だった。
「噂に基づいて批判されるとは心外だ」
「では事実ではないのだな」
「そうは言っておらぬ」
・・・
「軍事的浪漫主義者の血なまぐさい夢想は、この際無益だ。100万の将兵の命を新たに害うより、1万足らずの政治犯を無血開城の具にする方が、いくらかでもマシな選択と信じた次第である」
ビッテンフェルトは、そうは信じなかった。
「常勝不敗の帝国軍の名誉はどうなるか」
「名誉?」
「イゼルローンごとき、俺の艦隊だけで落として見せる。ましてミュラーもワーレンもいる。・・・」
「実績なき者の大言壮語を、戦略の旗艦に据えるわけにはいかぬ。もはや武力のみで事態の解決を図る段階ではない」
「実績がないだと!?」・・・
「卿らの実績とやらは、よく知っている。卿ら三名合わせて、ヤン・ウェンリーただ一人に、幾度、勝利の美酒を飲ませるに至ったか。・・・」
(解説)
感情的に、になると、どうしても話が長くなる。ビジネスにおいては感情論は禁物だ。会話は「手短に、かつ理論的に」を心がけたい。そもそも理論的に話をすれば、手短になる。長くなるという事は、理論的ではなく、屁理屈と思われる。
ここでは噂が事実であったわけだが、仮に物事を批判するときには、事実に基づかなければならない。噂が事実でないときには、単なる時間の無駄になる。
ビッテンフェルトとオーベルシュタインは、水と油だ。言い方と言うのはある。ビッテンフェルトは確かにヤン・ウェンリーに敗北はしたが、軍事的実績のないオーベルシュタインが命令を聞かせるために、それを理由にしたとすれば、プライドを傷つけるだけである。
軍事的には、オーベルシュタインよりもビッテンフェルトの方がはるかに多くの経験を積んでいるわけだから、そこは一歩下がろう。もちろん、新たに将兵が犠牲になる可能性の方が高く、オーベルシュタインの方法が絶対悪とは言い切れない側面があるのも確かではあるが、あまりに独断専行しすぎて、部下の気持ちをしっかりと捕まえていない。
(教訓)
〇組織上の会話は「手短に、かつ、理論的に」を心がけよう。
〇ビジネスにおいては、噂ではなく、事実に基づいて会話せよ。
〇未経験者は経験者のプライドを傷つけないように、上手く管理せよ。