ローエングラム公爵の、傷つけられた埃が、雷霆となって、おめおめと静観した副司令官ナイトハルト・ミュラーの頭上に落ちかかるであろうことを、多くの者が予測した。
「小官こと、閣下より大命をおおせつかりながら、任務を果たすこと叶わず、主将たるケンプ提督をお救いすることもできず、多くの兵を失い、敵をして勝ち誇らせました。この罪、万死に値しますが、おめおめと生きて還りましたのは、事の次第を閣下にお知らせし、お裁きを待とうと愚考したからであります。敗戦の罪はすべて小官にありますれば。部下たちにはどうか寛大なご処置を賜りたく」」
「卿に罪はない。一度の敗戦は、一度の勝利で償えばよいのだ。遠路の征旅。ご苦労であった」
「閣下・・・」
「私はすでにケンプ提督を失った。この上、卿まで失うことはできぬ。傷を全快するまで静養せよ。しかる後に現場復帰を命じるであろう」
ミュラーに対しては寛容を示したラインハルトであったが、科学技術総監シャフトに対しては、全く別であった。
「お言葉ながら、閣下、私の提案にミスはございませんでした。作戦の失敗は、統率及び指揮の任に当たった者の責任でございましょう。」
「シャフト技術大将、卿を収監する。・・・」
(解説)
ミュラーは、ヤンがイゼルローンにいないことを知り、帰ってくる前に、ヤンを捕えようとしたが、上長のケンプに止められた。仮にヤンを捕えられたのかどうかは別として、敗戦の責任を、決して他人のせいにはしなかった。それに対し、シャフト技術大将は、作戦の失敗を他人のせいにした。
もっともシャフトは、収賄、公金横領、脱税、特別背任、軍事機密の漏洩という別の罪で収監されたのであるが、いずれにしても、失敗を他人の責任にする者を赦してはならない。そこで反省できるか、他人の責任にしないか、そういった人物と付き合うべきだし、部下にすべきだし、さらにリーダーにすべきだろう。言い訳する奴はいらない。
人間だれしも失敗はするのだ、いちいち、それを咎めていては委縮してしまう。失敗は次の成功で取り返せ、と言えばリーダーはいいのだ。そこで一々説教するバカは、リーダーとして相応しい態度だと言えない。そもそもそいつを任命したリーダー本人が一番の責任を負うべきだからだ。
(教訓)
〇リーダーは任命責任がある。部下が失敗したときには、その失敗を咎めず、成功で取り戻させろ。
〇失敗を他人のせいにする奴とは付き合ってはならぬ、部下にしてもならず、リーダーにもするな。失敗を自分のせいにして反省したり、仮に、本当にその失敗が他人のせいであったとしても、自分を改善努力をする者と付き合え。