「キルヒアイス大尉、卿はなかなかどうして・・・いや、卿が上官に対して示した忠誠心は、見上げたものだ」
キルヒアイスは表情を消して聞いている。
「だが、程度というものがある。卿は名誉ある銀河帝国の軍人であって、ミューゼル准将の私的な家臣でないことを、この際、再確認しておいた方がよかろう、卿自身のためにもな」
・・・
「おまえには何かと迷惑をかけてしまうな。俺にはなるべくお前に負担をかけたくないし、功績は分かち合いたいのに・・・」
「そのお言葉だけで十分です。第一、セレブレッゼ中将でしたが、彼の身体を二つに割くわけにも参りません。ラインハルトさまが彼を捕虜になさったのも、間違いない事実です。ラインハルト様の武勲です。他人の口などお気になさいませんよう」
(解説)
敵の司令官であるセレブレッゼをラインハルトが捕虜にしたことを、キルヒアイスが部隊に周知してしまったため、リューネブルクは自らの手柄にすることができなかった。後日談ではあるが、結局リューネブルクも部隊長としての功績があったとして、昇進している。
キルヒアイスは、打算などなく、ラインハルトを引き上げたいという一心であったが、ラインハルトの手柄にして、ラインハルトが昇進すれば、自らも引き上げてもらえるのである。ただ、キルヒアイスにはもとより、ラインハルトに引き上げてもらいたいという私心はない。一般論として、ラインハルトとキルヒアイスのような関係は難しいが、キルヒアイスはラインハルトとの夢を共有したいと思い、夢の実現のために、私心なく行動をしている。
ここでは一般的なものの考え方をしてみよう。リューネブルクとラインハルトの差は、前者が自ら手柄を独占し、部下ですらも競争相手として、引き上げようとしない。後者は自ら手柄を独占しようとは思っていないし、部下とその手柄を共有したいと思っている。そしてその部下を引き上げようともする。どちらのリーダーに人がついて行きたいと思うかと言えば、間違いなくラインハルトであろう。
仮に部下に打算があったとしても、ラインハルトのような上司に当たれば、自らを引き上げてくれる。そのためにそのような上司に手柄を立てさせたいと思うのが人情ではないだろうか。
(教訓)
〇部下を引き上げてあげられる上司になれ。部下はついてくる。