本来の気質に反することだが、ラインハルトは凡庸を装った。
「意見と申されましても、特にありません。元帥閣下のご遠謀は、私ごとき弱輩の考え及ぶところではございません」
誠意の欠落を、ラインハルトは恭しさで補った。
「ではほかに意見もないようだし、戦勝の前祝としてシャンペンを開け、陛下の栄光と帝国の隆盛を、卿らと共に祈ることにしよう」
なすべきことを成してもいないのに勝利を確信しうるという精神構造は、ラインハルトの理解を絶している。表情にも動作にもそれを表しはしなかったが、視界の全てが無彩色に変じたような違和感の中で、彼は他の提督たちに和した。
(解説)
会議に参加していたラインハルトは、ミュッケンベルガーから意見があるかと問われた。この会議で発言しても無駄だと分かっていたので、発言するだけの能力はございませんと凡庸を装ったわけだ。
会社によっては、ラインハルトのような態度を取った方がいい場合もある。もちろん、活発な意見を求められる会議、と言うか会社もあるから、その時は遠慮なく発言しよう。
なすべきことを成してもいないのに勝利を確信しうる精神構造というのは、経営者に少なくない。まだ成果が見えていない起業時にやたら多いと思われる。例えば、店を出しました、お客が来ます、と言う精神構造である。何で店を出したら客がそれだけで来るのかよくわからない。人通りが多い所で、視認性が高ければ、新しい店か、一度試してみるか、と言う客がいないとも限らないが、どんな店かわからなければ、入りたくないという気持ちもある。それ故、うちの店は何の店なのかわかりやすくなっているか、本日開店した、ということをなんらかアピールしているか、従来の顧客に対して、サービスするから来てくださいねと伝えているか、色々やっていて初めて、客が来るのである。単に店を開けただけで客が自然とやってくることはない。
その癖、店に客が入ってこないと、アタフタしている。アタフタするだけで、特に何をしているという事もない。本人はお先真っ暗かもしれない。傍から見ていると何もしていないから無彩色と言ったところだろう。
(教訓)
〇会社のスタンスを考えて、会議に望め。まあ、発言しても無意味な会社にはいるだけ無駄だからさっさとやめろ。
〇成果が欲しければ、成果につながる行動を起こせ。