実績は確かにあるのだが、ビュコックの見る所、ホーランドの自信は実績の10倍ほども巨大だった。
「我が艦隊の行動について、無用な掣肘をしていただくたくないのです」
と、ホーランドは戦闘開始に先立って老提督に言ってのけた。
「無理に他艦隊との連携を求めれば、我が艦隊の長所を殺し、敵軍を益するのみ。戦略上の選択を自ら狭めることとなりましょう」
・・・
「小官はビュコック閣下の経験と実績を尊敬しております。過去の経験と実績を・・・」
・・・通信画像が消え去ると、フェイフェル少佐はうなり声をあげた。
「閣下、僭越ですが、ホーランド提督がああも作戦に自信がおありなら、わが隊は観客たるに徹しては如何でしょうか」
「作戦というものは実行するより早く失敗はしないものだ」
(解説)
同盟側の提督はビュコックであり、その傘下にホーランド提督がいた。大した実績もないくせに、口だけでかい。実績がない奴ほど、自信だけやたらすごい。逆に実績がある人ほど、自分の限界がわかっているから、自信が全くないわけではないが、慎重になることがある。
ホーランドの主張は、色々と指示するな、自分は自分だけで動いた方が、上手くいく、そう言いたいわけだ。会社にもこのような人はいる。単独行動好き人間である。確かに、その他の人とチームを組むと、他の人のペースも考えなければならなくなり、自分のペースが乱れ、リズムが狂う。しかし、一人でできないことは、一人でやったからと言って上手くいくものではない。
ホーランドはビュコックの経験や実績を尊敬しているが、どちらかと言うと、「過去の」に限定し、小ばかにしているといった様子である。そこでビュコックの副官が、「自信があるなら勝手にやらせればいい」とは言うが、あくまでもチーム戦でないと勝てないわけだから、ある人物のわがままを許すわけにはいかない。しかも「作戦は実行より早く失敗しない」という。頭の中だけであれば、どんなことでも成功に導くことができる。しかし実際にやってみるとそんな簡単にはいかないことが多いのだ。
ワンマンプレーヤーはもう少し小さな仕事で活躍場所を見つけた方がいい。チームで動くには和を乱す存在でしかない。
(教訓)
〇実績の乏しい人間ほど、自信だけは大きくなる。
〇頭の中だけならば、どんな作戦でもうまくいく。世の中そんなに甘くはない。