孫子に学ぶ、「兵法は、一に曰く度、二に曰く量、三に曰く数、四に曰く称、五に曰く勝。地は度を生じ、度は量を生じ、量は数を生じ、数は称を生じ、称は勝を生ず。故に勝兵は鎰を称るが若し。」
(現代語訳)
軍事には計量的な思考が必要であり、それは「度」「量」「数」「称」「勝」の5つである。戦場の地形を測定する「度」を知ることで、必要となる物「量」を考えるに至り、「量」が投入すべき兵「数」を算定する基礎となる。そして「数」が敵味方の兵力数を比較する「称」を考えるに至り、「称」が戦闘形態を定めて勝算を確定する「勝」の思考を促す。勝つ軍隊は、重い分銅「鎰」で軽い分銅「銖」と重さを競うように勝利は確実である。
(解説)
計量的な考え方を必要とするビジネスにおいても通用する考え方である。起業にはとにかく始めたのだから始めたのだと言って、事前計画も立てなければ、起業後はどんぶり勘定と言うのが当たり前にある。高度経済成長の時代であればどんぶり勘定でもなんとかなる場合が多かったが、今のご時世、どんぶり勘定だと上手くいかなくなるケースの方が大きい。
ここで言う5つの計量的思考をビジネスに当てはめてみよう。戦場の地形というのはマーケット、あるいは事業立地と言えよう。地形を把握すること、どこに敵が潜んでいるか、敵とはお客のことだ。マーケットの大きさを見て、どれだけの商品を提供できるか「量」がわかる。
次にその「量」をさばくために、どれだけの兵力、いわゆるスタッフ「数」が必要か、飲食店であれば、席「数」が必要かがわかる。また、近隣に競合がいれば、その分、顧客数を割り引いて考えなければならない。そこを「称」としよう。競合の価格戦略やサービス内容、顧客獲得戦略を把握したうえで、自社のサービスをどのように提供したら「勝」てるのかを検討していくことになる。勝算を確定させたうえで、起業せよ、ということなのだ。
ここまで準備して初めて、勝利への道筋が見えてくる。そして、実際に市場(戦場)に参入してみて、他の競合との位置関係を確かめつつ(出方を見つつ)、確実に顧客との距離感を縮めていく、顧客とのコミュニケーションを密に取り、敵のハートを射抜くことになる。そのハートを射抜いた分だけ、勝利が近づくというものだ。
[教訓]
〇ビジネスには計量的思考が不可欠である。
〇マーケットを知り、市場規模を把握し、競合との位置関係を抑え、どの程度の資金を投下すべきかを考える。計量的思考を行ったうえで、始めて勝算が見えてくる。