怒らないで伝えるためには>外伝第二巻p.24
「近いうち艦隊が出動するのですか?」
訊いた直後に、僕は後悔した。自分がひどく小利口に思えるのは、こういう瞬間である。ヤン提督は黒い目で僕の顔を見て、おだやかに答えた。
「そうならないようにと願っているんだけどね。そうなるかもしれないね」
この2年と8か月の間、ぼくはヤン提督から怒鳴りつけられてことがない。僕が優秀ではなく、提督が寛大だからだ。ヤン提督が気分を害したり、僕のやり方が間違っているといいたいときには、頭をかきながら僕の名前を二度呼ぶ。「ユリアン、ユリアン」と。
(解説)
20年ぐらい前までは上司が怒ったり、人格を否定したりしていても、大問題にはならず、日常茶飯事だった気もするが、最近は、一部のブラック企業を除いては、そんな傾向も少なくなっていると聞く。メンタルが軟(やわ)になっているというのか、実際は今の方が正常なのかもしれない。ある営業部長も十年位前までは怒鳴ってばっかりではあったが、別の会社では非常に温和になった。血圧に悪いからでしょう、とからかってみたら、今の子たちは怒鳴るとダメなんですよ、と言っていた。
ただ、人によっては怒鳴った方が、あるいは人格を否定するくらいの暴言を吐いた方がなにくそと言う気持ちで反発心を持ってくる人もいるらしい。野球でもたまに試合中の懲罰交代をする監督がいる。その次の試合に使わないということは珍しくもない。そうして代役の選手が活躍すれば、負けるか、と言う気持ちで試合に臨んでくれるし、練習にも励んでくれる。怒鳴る監督もいると思う、でも次の試合に出さないというのは、決して怒鳴っているわけではない。内心、怒りたいのだが、面と向かっては怒らない。いわゆる、自分の本心を別の形で表現するというのが正しい。
そこでヤンである。気分を害したり、注意したいときには、決して怒鳴ることなく、頭をかきながら「ユリアン、ユリアン」と二度名前を呼ぶ。これを実践しよう、ということではなくて、あなたなりの部下への怒り方を見つけると良い。もちろん怒った方がいい部下もいるだろう。怒ると委縮してしまう部下には、別の方法で、「本当は怒っているんだぞお」と言うやり方を見つけ、部下にわからせることだ。それでもわからない鈍感な部下ならば、手を変え品を変え、一番あなたと部下にとって効果的な怒りのメッセージを見つけよう。
元に戻って10年前に怒りの部長は、内心怒っているときにはさらに優しくするそうだ。昔の彼を知る人間としては、逆に怖いかもしれん。
(教訓)
〇怒らないで、怒りを伝える方法を考えよう。
〇野球の世界では、翌日に試合に使わないという方法がある。