>第二巻p.206
「どうもローエングラム侯とキルヒアイスの間がおかしいらしい」
「たしかか、そいつは」
「噂だ、今のところはな」・・・
「厄介だな。事実でなければ何者かの謀略ということも考えられる。事実だとすれば、はなはだまずい。いずれにせよ、放置してはおけんが・・・」
「といって、うっかり手を出せば、ぼやがかえって大火になる恐れがあるしな」
・・・
「・・・わが参謀長は、ローエングラム侯がキルヒアイスを公私ともに重用なされるのを、気に病んでいるらしい。例のナンバー2有害論だ。論としては一理あるが・・・」
ミッターマイヤーの声には、好意の響きが乏しい。
「頭の切れる男だ。それは認める。だが、どうも平地に乱を起こす癖があるな。今までうまく運んでいたものを、理屈に合わないからと言って、無理に改めることはない。ことに人間同士の関係をな」
(解説)
ロイエンタールとミッターマイヤーがポーカーを楽しんでいたときの会話である。
頭がいい人間は、まさに「平地に乱を起こす」ことが少なくない。事実を理屈にねじ込んで、その理屈通りに事を勧めようとするからだ。世の中理屈で成り立っているわけではない。事実だけで成り立っている。理屈なんぞ、実は後付けにすぎないことの方が多い。
人間関係は、それを知らないものが首を突っ込むと、かえって油を注ぐ結果になることも多い。よく事実関係を把握し、そのお互いのもやもやの原因を探り、対処できる自信があるならば、入り込んでも良いが、飛んだ藪蛇になることが多い。
まさに人間同士の関係を無理に改めることはない、のである。時に不合理なことを残さなければならないこともある。うまくいっているときは目をつぶるのも、組織を運営していくために必要なことである。
(教訓)
〇平地に乱を起こすような、事実を理屈にねじ込んで理屈に合わせようとしてはならない。
〇上手くいっているときは、なるべく目をつぶるのも組織を上手くいかせるコツである。そうは言っても、不正を育てすぎない注意が必要だ。