二重のドアを開けるとき、ぼくを力づけるつもりか、ボブラン少佐が言った。
「心配するな、ボブラン家の辞書に不可能の文字はない」
「失敗とか挫折とか言う文字はあるけどね」
(解説)
「~の辞書に不可能の文字はない」と言って、思い出すのが、ナポレオン・ボナパルトであろう。18世紀後半から19世紀前半にかけての、革命期のフランスの軍人・皇帝・革命家である。
このナポレオンの名言だが、元々は別の言い回しだったようだ。
Ce n’est pas possible, m’écrivez-vous ; cela n’est pas français.
「それは可能ではないと、あなたは私に書いている。しかし、それはフランス語ではない」。ドイツ遠征の際、ある司令官から送られて来た手紙への、返信として書かれた。つまり、辞書とは一言も言っていないのだ。そこで、ナポレオンの真意は、最後まであきらめるな、という部下を叱咤激励する言葉であったわけだ。ナポレオン本人が、俺は何でもできると偉そうに言ったわけではない。むしろ、「不可能という言葉を口にするな」といったところだろう。
それゆえ、ボブランが、ユリアンを力づけるために、ナポレオンの名言を取り上げたことに関しては、意味的に正しいのだ。
ただ、どんなこともやってみて、失敗することや挫折はある。イワン・コーネフがボブランを茶化して言っているが、ご愛敬である。
さて、この不可能に関する名言について、別の言い回しがある。
「不可能は、小心者の幻影であり、権力者の無能の証であり、卑怯者の避難所である。」
世の中には、確かに可能でないことは多いのだが、深く考えることもなく、反射的にそれ無理、不可能、とすぐに言う奴とは付き合わない方がいい。それが彼のスタンダードだからだ。創造的な仕事は永遠にできない。自分で考えようとしないからである。不可能な場合、何故不可能かを語り、代案を出せる人。こういう人をビジネスパートナーにしよう。代案を出してもなお、コスパに合わなければ、また別の閃きがあったときに考え直せばいい。思いついたことを今すぐしなければならない理由もない。
(教訓)
〇予の辞書に不可能の文字はないとは、元々は「それは可能ではないと、あなたは私に書いている。しかし、それはフランス語ではない」と言う言葉であった。
〇ナポレオンの名言は叱咤激励の言葉である。諦めない信念の言葉と言える。
〇反射的に、無理、不可能と言う奴とは仕事をするな。創造的仕事なんてしやしない。