極端に言うと、ヤンの住居には、寝室とバスルームと書庫があればよい。食事は外で済ませるし、家族の個室も必要ない。彼がなき父からうけついだもので、ガラクタで片づけられない者は、万歴赤絵とやらいう壺が一つあるだけである。「また昇進すれば、もっと広い家が必要でしょう」と係官はいうのだが。
「今後10年間、昇進する予定はありませんよ」
降格する可能性はあるけれど、口の中で、ヤンはそうつぶやいた。軍人の出世は登山に似た一面を持つ。険しい山道、一歩ごとに細まる道を上り続けるか、谷底に転落するか。どちらが楽だろう。
(解説)
「ぜいたくは敵だ!」というのは日本の戦時中のスローガンではあるが、事業経営にも通ずるスローガンである。
儲けてからぜいたくをするのはまだしも、融資を受けて贅沢をしてしまう経営者がいる。しかし融資は返さなければならないお金であって、一種の預り金である。贅沢をしてしまって、その後で、返済に困ると突然あたふたを始める。
売上を上げていないのに、融資を受けると良い住宅に住みだす。本当にやめておけである。だいたい事業で失敗する奴の大半が、自分のためにお金を使ってしまう奴である。事業のためだけにお金を使って、事業がこけるという話をあまり聞いたことがない。もちろん、よほど経営のセンスがない奴が、店を開いたものの、まるで顧客がこないで、じり貧になって行くという例は見たことがある。
融資だけでなく、投資を受けても似たような感じだ。投資は融資と違って返済を必要をするものではないが、投資も預り金である。いずれ何らかの形でお返しすべきものなのだ。どうも投資というものは、もらってラッキーなだけだと考えている輩が多い。そういう奴は結局使い切って終わるのがおちだ。
起業家は、ヤンの言うとおりに「今後10年間、昇進する予定はない」、厳密に言えば社長だから昇進はしないのだが、会社自体も本当に成功して大きくなるという確証はない。贅沢なんかしていられないはずだ。ましてや険しい山道で、一歩ごとに細まっていく道を上り続けるか、谷底に転落するかというリスクがあるという事を忘れはならない。「欲しがりません勝つまでは」、それが経営者が心掛けなければならないことである。
(教訓)
〇経営者にとって、ぜいたくは敵だ
〇経営者は、欲しがりません勝つまでは、を心がけよ