「ところで話は変わるが、君が先頭開始前にパエッタ中将に提出した作成計画、あれが実行されていたらわが軍は勝てたと思うかね」
「ええ多分」
「だが別の機会に、あの作戦を生かすことは可能ではないかね・・・」
「それはローエングラム伯次第です。彼が今回の成功に驕り、再び少数の兵で大軍を破棟との誘惑に抗しえなかったときには、あの作戦案が生き返ることもあるでしょう。しかし・・・」
「しかし?」
「しかし多分、そんなことにはならないと思います。少数をもって多数を破るのは、一見華麗ではありますが、用兵の常道から外れており、戦術ではなく奇術の範疇に属するものです。それと知らないローエングラム伯とも思えません。次は圧倒的な大軍を率いて攻めてくるでしょう」
「そうだな、敵より多数の兵力を整えることが用兵の根幹だ。だが素人はむしろ君の言う奇術の方を歓迎するものでね、少数の兵をもって多数の兵を撃破できなければ、無能だとさえ思っている・・・」
(解説)
シドレ元帥とヤンの会話が続く。アスターテ会戦の緒戦において、ヤンが提案した戦略を用いていれば勝てたかと言う元帥の質問に、ローエングラム(ラインハルト)はそこまでバカではないと、ヤンは返した。
素人こそ「奇策」を好む。戦力が弱い方が、戦力が強いものを叩く、という判官びいきはあるものだ。しかも弱いものが強いものに勝ったときの方が、弱いものを応援しているものの記憶に残りやすい。そして、それを覆したリーダーを名将と呼ぶ。
しかし、過去の歴史において、奇策が上手くいく方が希であろう。確率論的に戦力がある方が、平均的に勝っている。
例えば、素人の経営者は、自ら開発したものを売るときに、営業が優れていればどんなものも売れるはずだ。それ故、売れない結果を営業の能力のなさに押し付ける。結果、ノルマを課して、上司が罵詈雑言を吐いたり、営業の能力や人格を否定するくらいにことを言って、なんとか売らせようとする。はっきり言って経営者の無能を意味する。
優れた経営者は、営業が売れるものを開発する。ある意味で、営業が誰であろうと売れるモノを売ろうとするのだ。売れるモノを作らず、営業に責任を押し付ける、つまり、奇策を好むのは、バカな経営者のすることだ。
(教訓)
〇素人ほど奇策を好む。バカな経営者は、商品が売れないものを営業のせいにする。
〇用兵の根幹は戦力が相手よりまさっているかどうか。優れた経営者は、売れるモノを作る。