「だがな、自由惑星同盟の権力者たちが、吾々の手から遠くにいるわけではない。汝らフェザーンの富力によって頸筋を抑えられているし、元首のトリューニヒトは我が教徒たちによってクーデターから救われた。銀河帝国に加担するのは良いが、せっかくの同盟の手駒を無為に死なせることになりはせぬか。汝らの用語で言えば、投資が無駄になる。そうではないか」
「いやいやそうはなりません。主教猊下。同盟の権力者たちは、同盟それ自体を内部から崩壊させる腐食剤として使えます。およそ、国内が強固であるのに、外敵の攻撃のみで滅亡した国家と言うものはありませんからな。内部の腐敗が、外部からの脅威を助長するのです。そして、ここが肝腎ですが、国家というものは、下から上に向って腐敗が進むという事は絶対にないのです。まずは頂上から腐り始める。一つの例外もありません。」
(解説)
地球教の主教デグスビイと自治領主ルビンスキーの会話は続く。地球教が、同盟のクーデター時に元首トリューニヒトを匿っており、地球教自体も、同盟にそれなりの投資をしている。フェザーンの言うとおりに、帝国側に加担して、同盟側を潰してしまうと、デグスビイは人的関係が無駄になるといっている。ルビンスキーは無駄にはならず使えると反論した。
デグスビイは、フェザーンの自治領主ルビンスキーがわかりやすい例えを用いた。つまり(我々の)「投資が無駄になる」。相手に伝える時には、相手が理解しやすい、普通使っている言葉で表現するとよい、と言う例である。自分が理解していることは、相手も知っていると思いがちである。普段の会話でもA氏についての話をして、あいつがさ、というが、実はそれを聞いている人がA氏の事だと分からないこともある。さらに、頭のいい人は、自分の領域の専門用語と使いたがる。相手が専門家ではない限りは、専門用語を相手が知らないと思って話をした方が良い。知識をひけらかすために横文字を使い奴もいるが、逆効果でしかない。
ルビンスキーの反論の中で、国家は外的な攻撃だけで滅亡はしない、内部の腐敗によって滅亡するという。そして、組織は下からではなく上から腐る。全く反論もできない事実である。
政府についてはそのままだから敢えて言うまい。そして、会社組織もほぼ事実その通りでしかない。競合相手から負ける時も、競合から潰されること以上に、その競争に耐えられない原因を作ったのは、リーダーやその取り巻きである。スタッフが悪くて会社がつぶれるということはない。
(教訓)
〇相手がよほどの専門家でない限りは、専門用語を使うな。
〇会社は上層部次第。腐るのも競合相手からではなく、部下からでもない。リーダーやその取り巻きが組織をダメにする。