「それで、卿は、銀河帝国が死病に犯されぬよう、どのような薬を調合してくれるのだ」
「まず、陛下、憲法をおつくり下さい。次に議会をお開き下さい。それで形が整います。立憲政治と言う器が」
「器を作った後には、酒を注がなくてはなるまい。どのような酒がふさわしい?」
「酒は良い味を出すまでに時間がかかります。立憲政治に似合う人材が揃い、それを持ってもよく運営するまでには日数が必要でしょう」・・・
「卿が目的とするところは、いささか違うだろう。銀河帝国と言う器に、立憲政治と言う酒を注ぐつもりではないのか。そうなれば、民主思想とやらが、銀河帝国を乗っ取ってしまうことになるかもしれぬな」
「予はフェザーンに帰える。予を待っていてくれる者たちが幾人かいるのでな。最後の旅をする価値があるだろう」
ユリアンは返答ができなかった。皇帝は死を直視して、しかもそれを重視していなかった。これほど死に対して自在である人をユリアンは他に一人しか知らない。その人は既に1年前に亡くなっている。
(解説)
体調が回復してからのラインハルトとユリアンの会話であり、ヤンの考えていたことを披露したわけだが、要するに思想的に帝国を乗っ取る算段であった。その辺はラインハルトから簡単に看破された。
会社においては、経営者が憲法になってしまうことがよくある。これは専制政治と何ら変わりがない。一般論としては、「定款」が会社の憲法であるとはよく言われる。そしてその変更のためには、特別決議を要する。当然会社法に反する条文は置けない。そうは言っても、特別決議は経営者が会社のオーナーであったら、ほぼ自由自在で変えられる。
会社にはそれぞれ規則や規程がある。就業規則とか、給与規程等聞いたこともあるだろう。一応ルール決めはされている。労働法上は、容易に変更できないようにもなっている。議会は株主総会が該当するが、それもオーナー社長であれば形骸化してしまう。会社制度はかくも民主主義とはかけ離れた制度ではないか。しかし、規則も規程もないよりはましだ。柔軟性を欠く最大の原因でもあるが、従業員が会社の権力に対抗できる唯一のものでもある。規則や規程はしっかりと整備しておいた方がいい。会社を経営している以上、ないはずはないのだが、ない会社もあるし、創業のときに仮に作って、現実にそぐわないものもある。
死は当然に恐ろしい。しかし一度死ぬ思いをして生還した人は、強いメンタリティを持っている。何事にも動じない。借金も動じない。失敗にも動じない。他社からの批判にも動じない。一々動じてしまう人は大物にはなれないのだ。
(教訓)
〇規則や規程は会社の権力に対抗するための唯一の手段である。きちんと整備しておこう。
〇大物は何物にも動じない。借金、失敗に動じているうちは、大物にはなれない。