シュターデン少将を通じて、元帥の返答はラインハルトにもたらされた。卿の進言を可とするも、なお成功の可能性に疑問あり、卿自身を持って作戦実行の責任者に擬する意思あれば、総司令部は、協力を惜しまないであろう、と。自分でやってみろ、ということであった。
「おやりになるのですか、ラインハルトさま」
「キルヒアイスはどう思う?」
「おやりください、ラインハルトさま」
「キルヒアイスもそう思うか?」
短い、個性に欠ける対話のようでいて、思考の波長が完全に同調しているので、長い会話も豊富な表現も必要ではないのである。
(解説)
帝国軍と同盟軍のイゼルローンでの戦いに終止符を打つべく、ラインハルトはミュッケンベルガー元帥に直接作戦を進言した。元帥は、自分でやってみろ、協力はする、と伝えた。
経営者が打開策を持たない場合、部下から戦略の提言があったら、素直にやらせてみるのも良い。失敗もミニマムに抑えられれば、問題視するほどでもない。その状況によって、さらなる支援を行うかを決めればよい。何でもかんでも、成功の可能性に疑問を持ったらやらないというのは良くない。動かない経営者には、従業員は魅力を持たない。
自分でやってみろという言葉に、意気を感じて、ラインハルトとキルヒアイスは、阿吽の呼吸で作戦の実行に移った。そこには具体的な言葉は一切必要としなかった。
ビジネスパートナーも長い関係になると、だいたい相手の考えていることがわかっている。その場合、具体的な言葉というのは減る。ビジネスパートナーではなく、生活上のパートナーでもよくあるだろう。あれとかそれで通じてしまう。そうなってくれば本物である。この人何考えているんだろう、と相手の考えがわからないと非常にストレスに感じる。そして分かろうとせずに、誤解もしてしまう。分からないうちは面倒くさがらずにきちんと確認する、わかってきたら阿吽の呼吸。そこまでいられる相手がいたら、全てのことが上手くいくと思ってよい。嫌な人間には、長い人間関係は生じようがない。
(教訓)
〇自分に打開策がなければ、思い切って部下の策を実行せよ。
〇阿吽の呼吸ができるようなビジネスパートナーを持てば、上手くいく。