ヘルムート・レンネンカンプは・・・大小の戦闘で武勲を重ねた堅実な用兵家であり、軍隊組織を管理運営する能力においても欠けるところはないと思われていた。彼は一時期、少佐であったラインハルトの上官であり、「生意気な金髪の孺子」を特に厚遇はしなかったものの、何人も後ろ指を指せないほど公正に扱った。その結果、彼は将来のゴールデンバウム王朝の創始者が脳裏で作成していた人材登用のリストに、名を記されることになったのである。
忠誠心、責任感、勤勉、公正、規律性といった数々の美徳にレンネンカンプは恵まれており、部下たちにも相応の尊敬と信頼の念を寄せられていた。帝国将帥列伝に彼のための一章があげられるとすれば、賞賛の記述が多くを占めることは明らかだった。ただ、任務が準軍事面から他の領域へはみ出すとき、彼は、オスカー・フォン・ロイエンタールの柔軟さとウォルフガング・ミッターマイヤーの寛容さとを欠くこと、その美徳のゆえにかえって自己と他者とを共に追い詰めてしまう傾向があること、優秀な軍人としての資質と人間としての偉大さとが必ずしも両立しないこと・・・
(解説)
レンネンカンプは、皇帝であるラインハルトが出世する前の上司であったこともある。会社でも、後日入社の部下が、いつの間にか出世して上司になることが珍しくもない。あるいは別会社の上司と部下の関係が、部下の方が転職した会社で、元上司がお世話になるということもある。元部下が、会社の大多数派の重要人物になってしまうということもないわけではない。
要するに、今上司と部下の関係ではあるが、未来永劫その関係が続くかどうかはわからないから、上司の特権を使って、部下いびりなんてやめた方がいい。逆の立場になったらいびられることが確実ではないか。
レンネンカンプは管理者として有能であったのだろう。しかしそれは軍事と言う意味での管理であって、他の組織の管理者としては、問題があったという。柔軟さや寛容さがなく、さらには規律を重んじすぎて、プレッシャーをかけてしまうのであった。
上意下達(じょういかたつ)、いわゆるトップダウン型の組織であれば、レンネンカンプは有能なままでいられたのであろう。しかし近年の組織には、下意上達、いわゆるボトムアップ型もありうる。この場合、規律の厳正なる適用よりも、調整力がモノを言う。
(教訓)
〇上司と部下の関係は不変ではない。上司だからと言って、その権限を活用したマネジメントを行ってはならない。
〇ボトムアップ型の組織は、調整力がモノを言う。