そこで反駁した者がいる。内務省内国安全保障局長ハイドリッヒ・ラングであった。
「レンネンカンプ上級大将を任用なさったのは。恐れ多くも皇帝陛下であらせられます。司令長官閣下、レンネンカンプ閣下を非難なさることは、神聖不可侵なる皇帝陛下の声望に傷をつけることになりますぞ。そのあたりをどうかご考慮頂きたいものですな」
「黙れ!下種!」
鞭を叩きつけるような叱咤は、当のミッターマイヤーではなく、ロイエンタールの口からほとばしった。
「きさまは司令長官の正論を封じるに、自らの見識ではなく、皇帝陛下の御名をもってしようというのか。虎の威を借る痩せ狐めが!そもそも貴様は、内務省の位置局長に過ぎぬ身でありながら、何の故をもって上級大将以上の者しか出席を赦されぬこの会議にでかい面を並べているのだ。あまつさえ、元帥同士の討論に割り込むとは、増長も極まる。今すぐ出ていけ!それとも自分の足で出ていくのは嫌か」
(解説)
自分の直接の上司であるオーベルシュタインが、ミッターマイヤーとロイエンタールから責められていたので、元帥同士の話に、ラングは割り込んでしまって、ロイエンタールから下種呼ばわりされてしまった。
結局、議論しているときに、皇帝陛下の名前を出したら、その議論が妨げられてしまう。会社でも社長がこういってましたよ、と言ってしまったら議論の意味もない。
自分の理論が他者の者より弱いと、権威に頼ってしまうことがある。ここで歴史上の偉い人が「〇〇が言っていたことだけどさ・・・」と言ったら、みんながそこで納得してしまうのだ。それだけ我々一般人は権威に弱い。
誰が何と言っていようと、お前がどう考えるのか、お前の言葉で話せ、でないなら割り込んでくるな、というのがロイエンタールの考え方である。
そもそも、経営会議で書記やかばん持ちが意見を述べるに等しい。発言を赦されたときにのみ発言するべきだ。
(教訓)
〇自分の言葉で話せ。
〇すぐに、社長が、歴史上の人物が、と権威に逃げるな。頭が悪いといっているようなものだ。