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利他的気持ちを失った経営者は、単なる猿になりさがる

「リンチの奴か?」とバーカスト大尉は憎々しそうに呼び捨てた。「少将」とも「閣下」とも呼ばなかった。
「何か月前までは、同じ矯正区の中にいたことはいたがな。いつか姿が見えなくなってしまった。どこへ行ったか、今さら何の関心もないね」
「今回の捕虜交換には、リンチ少将の名はなかったようですが・・・」
「さあな、なにしろ民間人を捨てて逃げ出した責任者だ。帰ったところで政府からもマスコミからも袋叩きだろう。改めて軍法会議か裁判かってことになりかねん。行方をくらました方が賢明であろうて」
・・・
「人間もああなっては終わりだな。エル・ファシルで醜態をさらすまでは、結構武勲も経てたし、人望もあった男だがな。あの一件で、過去の名誉も将来性も、全て煙になって消えてしまった。人間、どこで躓くか、いる一生の評価が定まるか、わかったもんじゃないな」

(解説)
帝国軍と同盟軍の間で、お互いの捕虜をイゼルローン要塞にて交換した。帝国側に捕らえられていた捕虜の中で、エル・ファシルのときに逃亡した兵士バーカスト大尉に会ってユリアンは話を聞いた。民間人を見捨てて逃亡したリンチ少将は、今回の捕虜交換のリストには入っていなかった。バーカストはもはや上司とも思っていない。

社会的に地位の高い人たちが、問題を引き起こすと、「晩節を汚す」と言われる。歴史上の人物としては、豊臣秀吉が挙げられます。養子の秀次に信長の所領を受け継がせ、関白まで出世させたものの、実子の秀頼が生まれると一転して秀次に、切腹を命じた、これによって家臣の多くが離反し、関ヶ原の合戦や大阪城夏の陣で豊臣家の滅亡に至ったと言われている。

また、東郷平八郎元帥もバルチック艦隊を破り世界的な海軍の英雄になるも、航空艦隊構想を理解できず、巨砲大鑑主義に陥り、帝国海軍を破滅させた原因を作ったとも言われている。

これは生物学上であるが、自己抑制を司る前頭葉が老化で弱まり、幼児性(自己中心性)が強まるから、と言われている。この弊害を減らすためには、高い地位に就くに従い、「利他」の価値観を訓練する必要がある。だから老齢政治家や高級官僚が自分の懐に金を入れたがるというわけだ。

稲森和夫先生も、経営者はエゴが増大して、自分でも、そして周囲からも手が付けられなくなった時に、判断を誤り、社員の心も離れていくため、報酬の多寡ではなく、「俺が俺が」という気持ちを抑えることを説いている。

(教訓)
〇年を取ると、前頭葉の能力が老化で衰え、自己中心的になりがちである。そのためには、普段から利他的生き方を心がける訓練をしておかないといけない。
〇経営者は「俺が俺が」という気持ちを抑えろ。エゴのコントロールができなくなり、判断を誤ると、人心が離れていく。

この記事を書いた人
経営学博士。経営学は座学より実学をモットーに大学院在学時より、サラリーマンで修業。一部上場企業の財務、メガバンクでの不良債権処理、 上場支援、上場後の投資家向け広報、M&A、事業承継等を経験。 数千の経営者と身近に接することが多く、数多くの成功例や失敗例を見てきた。 一人でも多くの成功者を輩出することが自らの天職と考え、現在は独立し、起業家に対して、ファイナンスやマネジメントまわりのサポートを行っている。 起業家モチベーター。
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