「皇帝陛下、謹んで報告いたします。軍務省よりの連絡によりますと、旧同盟の首都たる惑星ハイネセンにおいて、反国家的暴動が生じました由にございます」
「せめて式が終わるまで待てなかったのか、卿は!」
ビッテンフェルトがうなると、ミッターマイヤーがうなずいた。
「そうだ、この吉日に、無粋なことをするものではない」
・・・
「吉事は延期できるが、兇事はそうはいかぬ。まして国家の安寧に関わりある事、陛下のご裁断がどう下るかはともかく、お耳に入れぬわけにはいかぬ」
正論である。君主の堕落は、不快な情報を遮断して悦にふける所から始まることは、歴史が教えるところだ。「そのような話、予は聞きとうない」とは亡国の君主が必ず口にすることである。
(解説)
ハイネセンで暴動が起きたという報告があったのだが、事もあろうにラインハルトとヒルダの結婚式の真っ最中であった。
こんな吉日に兇事のことを話すのは確かに無粋ではあるが、報告すべき内容による。あくまでも国家的な大問題であって、次の対応につき決定を仰がざるを得ない場合は、報告の義務なしであろう。
確率論から言って、大企業の社長にもなれば、会社の不祥事が起きる回数は増える。確率は小さくても、母数が多いために、回数だけは増えざるを得ない。中小企業の社長であれば、母数が小さいから、回数は減る。
こんなときに会社の一大事の内容すらも、耳に入れたくない、なんていったら、経営者に対する信用はがた落ちである。どんな吉日であったとしても、自分の利益の方が大事なのかよ、と思われてしまう。
経営者も所詮は人間だから、嫌な話はなるべく聞きたくないのは当然だが、聞かないわけにはいかないし、指示もしないわけにはいかない。嫌な話は下の者で処理をしておけ、といったら、組織は終わる。信頼度数を下方に変化させるからだ。
また、経営者に耳の痛い話もきちんと聞くべきだ。経営について真摯に対応してくれる、と言う部下の気持ちが、組織を強固にするのだ。そりゃ、部下だっていい話だけを経営者にしたいものだ。悪い話だったら、どう話そうと必要以上に気を使うからだ。部下に妙な気を使わせすぎてはならない。
(教訓)
〇経営者は、どんなときでも、報告は聞け。
〇経営者が、耳障りをする部下からの話を聞けなくなったら、信頼を失う。
〇経営者は、部下に気を遣わせずに、報告を受けろ。