「全艦前進!最大戦速!」
ロイエンタールは指令した。あるいは、一挙に勝敗を決することができるかもしれない。ヤンを捕えるか殺す、帝国軍の全将兵が渇望する、それは巨大な武勲だった。この時一瞬、若いロイエンタールが戦意過剰の状態に陥ったとしても当然であろう。・・・
これがヤンの詭計だった。彼は、ロイエンタールのような一流、あるいはそれ以上の有能な将帥の足元をすくうには、むしろ二流の詭計をしかけて虚を突くべきではないか、と考えたのである。彼の搭乗しない旗艦を囮に使ってロイエンタールを前方に誘い出し、強襲揚陸艦を衝突されて陸戦隊員を侵入させ、ロイエンタールを捕虜にするか射殺する。・・・
「戦闘を中止して後退しろ。俺としたことが功を焦って敵のペースに乗せられてしまった。旗艦に陸戦部隊の侵入を許すとは。間の抜けた話だ」
「申し訳ございません」
「別に卿の責任ではない。俺が熱くなりすぎたのだ。少し頭を冷やして出直すとしよう」
(解説)
同盟のシェーンコップが、ヤンの詭計により、帝国のロイエンタールの旗艦に部下とともに侵入し、追い詰めた。ヤンを倒せるかもしれないと、前のめりになったところをしてやられた。もっとも勝負がつかず、シェーンコップとロイエンタールの勝負は引き分けに終わった。
人間は、焦ったり、ここで行けると思った瞬間に、油断が生じ、バランスを崩す。従って、相手を前のめりにさせるというのも一つの戦術である。
もう一つ、一流には二流の詭計を使うというのも、発想の転換であろう。また、それが通じるのもヤンだからと言える。ヤンがまさか、そんな二流の戦術を使ってくるとは思わないだろう。普通であれば、何だ、この二流の戦術、ということで軽くあしらわれるに違いない。
ついつい夢中になっていると、他のことが見えなくなる。つまり木を見て森を見ずの状態になってしまうこともある。何かに夢中になっていると思ったら、誰かに注意されるのを待つしかないかもしれないが、自分で気づければ、感情をコントロールできている証拠だ。熱くなったら、ひとまず冷やそう。まずは落ち着いて、態勢を整えて、出直そう。自分も、組織もである。
(教訓)
〇時と場合によっては、一流の相手には二流の戦術の方が有効な場合がある。まさかと相手に思わせることで、勝機を見いだせ。
〇何かに夢中になってしまったら、全体像が見えなくなることがある。ここでひとまず落ち着いて、態勢を立て直して、出直せ。