「吾々はイゼルローン要塞を占拠するという途を選んだが、本当はもう一つの選択肢がなかったわけじゃないんだ」
それは、革命の移動する先々に、共和主義の政治組織を遺してゆくというやり方である。敢えて単一の根拠地にこだわらず、広大な宇宙それ自体を移動基地にして、「人民の海」を泳ぎ回るのである。
「むしろその方が良かったかもしれないな。イゼルローンの幻影に固執していたのは、私の方だったかもしれない。帝国軍の連中ではなくて」・・・
「どうしてそれが不可能だったのです?」
ヤンの戦略構想が無に帰し、次善を採らざるを得なかった理由を、ユリアンは知りたかった。可能であれば、最善の途をヤンは取ったに違いないのだから。
「資金がなかったからだよ」
即答してヤンは苦笑した。
「笑うしかない真実、とはこれだな。吾々はイゼルローン要塞にとどまっている限り、食糧も武器弾薬もどうにか自給自足できる。ところが・・・」
(解説)
ヤンの野望は、野望にはなっていないが、民主主義の制度と理念と言う種を残したいというだけである。自分がトップに登り、権力を握りたいというわけではない。そのために必要なことは、各方面に、政治組織を遺せばよかったというヤンの考え方も理解できる。
但し、民主主義のコアは必要であって、帝国領のどこかに、ひっそりとした形でもよいので、モデル国家を作らなければならなかった。それができなかった理由は資金である。自給自足できれば、その問題は解決できる。
会社にも似ている。本社と言う形にこだわる必要はない。それは、子会社でもいいし、支店でもいい、あるいはフランチャイズでもブランドの維持及び拡大は可能である。ここで重要な視点は、それぞれの地点で「自給自足」ができることだ。簡単に言えば、ブランド力は本社で管理しながらも、独立採算制で成り立つかどうかである。本社が全て店舗を構えれば、その一つの店舗で赤字になっていたとしても、補填することは可能だ。しかし長期的に補填は不可能である。店舗閉鎖という意思決定をしなければならない。
独立採算制を徹底させることで、どのような手段を取ったとしても、ブランドの拡大に資するわけだ。本社主義にこだわる必要はない。
(教訓)
〇独立採算制を徹底させ、ブランドの拡大を行え。
〇本社だけで全ての収益に責任を持たなければならない理由はない。