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組織には意図的犠牲者が必要

「もし皇帝が誘拐されれば、宮殿の警備担当者は、当然ながら罪を問われることになりますな。モルト中将には生命をもってそれを贖ってもらわねばなりますまい」
「あの男を死なせるのか・・・?」
誠実で重厚な初老の武人の姿を、ラインハルトは脳裏に描いた。
「モルト中将は古風な男です。皇帝を誘拐されたとあれば、たとえかっかがおゆるしになっても、ご厚意に甘んずるを潔しとしますまい」・・・
「わかった、仕方ない。そのときはモルトに責任を取らせよう。だが、モルト一人にだ。他には及ぼさない」
「モルトの直接の上司はケスラーであるが・・・」
「ケスラーは得難い男だし、憲兵総監まで重罪となっては兵士たちが動揺するだろう。戒告と減俸、その程度で良い」
あるいは、心の中で総参謀長は吐息したかもしれない。
「閣下、お耳汚しながら一つだけ申し上げておきます。一本の木も引き抜かず、一個の石もよけずに、密林に道を開くことはできませんぞ」

(解説)
7歳のゴールデンバウム皇帝を誘拐し、亡命政府を起こすという、計画がフェザーンの脚本と、旧皇帝派貴族の役者で進められていた。ラインハルトとオーベルシュタインは、見てみぬふりはせぬものの、できる限り、その計画を進めさせようと考えていた。皇帝が同盟側で亡命政府を開けば、同盟側への出兵の理由となるからである。しかし、皇帝が誘拐されたとすれば、責任を問わざるを得ない。しかも自国の責任者である。その犠牲は最低限に抑えようというのが、ラインハルトの親心であった。

当然、人的犠牲を出すことは倫理的に許されるわけではないが、世間的に超優良企業にもなれば、普通に行われていたりもする。それが大きな組織を持続されるためのやむを得ないコストなのだろう。

例えば、贈収賄とか粉飾経理等というものを個人のためだけにやるはずがないし、どちらも、売上や資金繰りというメリットを会社組織全体が享受している。その会社で給料をぬくぬくともらっている以上、役員も従業員も恩恵を受けている。しかし、会社としては、その担当者を処分せざるを得なくなる。これは対外的なアピールのためだ。そして処分された担当者は、減俸かあるいは退職、関係会社、閑職への異動等、憂き目にあっている。

組織的な維持のために、犠牲にスタッフを故意に作るべきということではない。そのようなコストを経営者がどう考えるかだけの話だ。正解も間違いもない。ただ、そこで働く人は、そのような組織の実情、つまり自分がぬくぬくと生きられるためには、何らかの犠牲があるということを知っていた方がいい。きれいごとでは大組織は回らない。

(教訓)
〇大組織の維持には、意図的な犠牲者も必要なことを知っておいた方がいい。

この記事を書いた人
経営学博士。経営学は座学より実学をモットーに大学院在学時より、サラリーマンで修業。一部上場企業の財務、メガバンクでの不良債権処理、 上場支援、上場後の投資家向け広報、M&A、事業承継等を経験。 数千の経営者と身近に接することが多く、数多くの成功例や失敗例を見てきた。 一人でも多くの成功者を輩出することが自らの天職と考え、現在は独立し、起業家に対して、ファイナンスやマネジメントまわりのサポートを行っている。 起業家モチベーター。
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