ユリアンはとまどっている。帝国軍の動きが、彼の予想よりも鈍重なのだ。砲火は高密度で、陣容は深く熱いが、皇帝ラインハルトの用兵は、よりダイナミズムに富んだものではなかったのか、鈍重は重厚に通じ、ユリアンからすれば、詭計を用いて帝国軍をかき回す間隙を見出すことができずにいる。なにしろ少数のイゼルローン軍としては、底なしの消耗戦に引きずるこまれることは回避せねばならなかった。
「相手の予測が的中するか、願望が叶えられるか。そう錯覚させることが、罠の成功率を高くするんだよ。落とし穴の上に金貨を置いておくのさ。」
(解説)
帝国軍の動きが予想より鈍重だったのは、帝国軍が慎重に攻撃していたのではなく、ラインハルトが病気で倒れ、指揮命令系統が壊れたことによる。指揮命令がなされなかったため、現場の将校が動けなかったのだ。ただその結果、動きが鈍重であることでかえって艦隊に厚みができて、隙を見つけることができなかった。
従業員の動きが遅くて、イライラする経営者も多いと思うが、何も早いことだけが全てではない。動きが遅れた分、ミスをしなくて済むこともある。考える時間ができて、失敗を事前に防ぐこともできる。意図せずして、礎が強固になることもある。動きが悪いということは、そこに何らかの原因があるとみてよい。従業員のやる気の問題というのもあるのだが、迷ったり、何らか動きづらい、組織上の問題、ビジネス上の問題というものもあるのだ。この場合、その問題点を解明する方が先だ。目の前に大地が開けているから、走り抜けてこい!とリーダーは言うかもしれないが、地雷が落ちているかもしれない。ならばリーダーが先に走り抜けてこなければダメだろう。リーダーの進んだ道を進めば、そこには最低でも地雷がないことを確認できるというものだ。自分で動いた方が、その問題点に気づくこともある。
上記ヤンの言葉、これはユリアンの回想によるものだが、繰り返すと、「相手の予測が的中するか、願望が叶えられるか。そう錯覚させることが、罠の成功率を高くする。落とし穴の上に金貨を置いておく」。罠と言うと言葉はものすごく悪いが、マーケティングの考え方に通じる。
こちらの思い通りにお客を動かすためには、まずお客が何を望んでいるかを知り、その望みをかなえてあげることだ。そしてその望みを叶えたら、こちらの望みも同時に叶えられるような仕組みにしておけば、お客はそのサービスを利用しようとする。まさに落とし穴の上に金貨を置くビジネスの仕組みをいかに作れるか、それが課金ポイントである。
(教訓)
〇動きが悪くてかえってうまくいくこともある。
〇落とし穴の上に金貨を置くビジネスモデルを考えろ。