「陛下のお許しを得て申し上げたく思います。軍務尚書オーベルシュタイン元帥閣下はともかく、ラング内務次官は、国家に対しても陛下に対しても、功より罪の方が多うございます。彼の所業や為人が反感を抱かれていること、陛下はご存じでいらっしゃいましょう?」
「・・・フロイラインに言われるまでもない。ラングとやらが小人であることは、承知している。だが、鼠が一匹、倉庫の穀物を食い荒らすとしても、被害は知れたものだし、その程度の棲息を赦し得ないようでは、銀河帝国も狭すぎるではないか」
これは必ずしもラインハルトの本心を表現したものではない。ラインハルトは自分が廉潔であることに対し、君主としては奇妙なコンプレックスがあるのだ。古来。「君主は清濁を合わせ持ち、小人をも包容する度量を持つべきである」と言う君主論が有力であり、それを知っているラインハルトとしては、刑法や不敬罪を犯したわけでもない彼を追放できなかったのだ。そして、何よりも、ラインハルトはラング等元々眼中になかったのである。金髪の覇王は、冬バラの花を愛ではしても、それにつく害虫にまでは視線を向けない。
「予は愚かだった。小人の権利を守って、有能な忠臣に不満と不安を抱かせていたとはな」
(解説)
ロイエンタール叛逆事件において、ラングが何かを画策していると想像をしているものは多かった。そこで、ヒルダがラインハルトに対して進言する。
どんな組織にも大悪、小悪ぐらいはいる。善人ばかりの組織なんてあったもんじゃない。もちろん善人が多い組織というものはいる。大きな組織になればなるほど、どんなに選別したとしても、会社の制度を使って、ちょろまかそうというのは出てくる。罪の意識なんてものはないだろうが、新幹線で通っていると嘘をついて、普通列車で出社して、その差額をちょろまかす。取引先と飲んだことにして、私的な飲みを会社に請求する。これも立派な小悪である。
しかし、その小悪が小悪である間はよいのだ。小悪が増長することがある。たまに会社の経理で、自分のFXの投資のためにと、会社のお金に手を出してしまって、返せなくて事件化することがある。返せれば事件化しないだろうというのは甘い。一度上手くいってしまうと、そのうち、追加証拠金を上げて、より会社の金を使って稼ごうとするのだ。小悪のままで会社に発見された方が、お互いにとって幸せである。
君主は清濁併せ持ち、小人を包容する度量を持つべき、と言うのは正しいが、いくら悪いことをしているような輩を包容するといっても、組織に害を与えだすと、そんなわけにはいかない。そして有能な人材は、そのような小悪を見て、良い印象を抱くことはない。小悪は小悪のまま閉じ込めておければよいが、中悪になる頃には処断しなければならないだろう。
(教訓)
〇偉大なリーダーは清濁併せ持て。
〇些細な小悪は組織の潤滑油である。小悪であり続ける限り、とやかく言うな。
〇小悪から中悪になりかけたと持ったら、迷わず処断せよ。組織にたいした実損がなかったとしても、組織に悪影響を与える。有能な人材のモチベーションを下げるという意味で。