あの豪奢な黄金の髪の若者が、単なる戦士なら、戦いを求めるだけあろう。もし彼が単なる権力者なら、勝利だけを望むだろう。ラインハルトは戦って勝つことを、価値の最高たるものをしている。覇者の覇者たる所以の一つがそこに存在するのではないか、とヤンは思う。
「まあ、ミッターマイヤーとロイエンタールの二人は、なるべく避けて通るとしよう。彼らにこだわっていては全体の効率が悪くなる」・・・
「強い敵と戦ってこそ意義と成長がある」等という、戦争と学生スポーツを混同するような観念に毒されることもなかった。要するにヤンは勝たねばならず、どうせなら効率的に、はっきり言えば、なるべく楽に勝ちたかったのである。ミッターマイヤーやロイエンタールと戦うことになれば、たとえ最終的に勝つにせよ、著しくエネルギーと時間を消耗することは明白だった。
(解説)
人生いろいろ、経営者もいろいろ。仕事ができる人は、当然優秀な人なのだが、経営者として優秀かと言うと、そうとは限らない。あの人は仕事ができる、というだけならば、上には上がいるだろうし、サラリーマンの上司レべルでしかない。もちろん仕事ができるに越したことはないけれど。
権力者タイプは、あまり前面に出てこなくて、どちらかというと部下に任せきりだろう。部下に忠誠心があればいいのだが、ない場合は、権力者が不祥事の責任を負わされるだけということにもなりうる。
その点、ラインハルトは仕事もでき、率先して行い、部下についてこいと言えるタイプのリーダーであろう。安全なところにいるわけではないから、部下は自らの命を投げ出す覚悟でついて行こうとする。アイルランドの首相は医師免許を持っていたから、コロナ禍のときに、週一で自らも最前線で治療に当たっていた。現場を見るということは素晴らしい。そしてリスクを負う姿勢も素晴らしい。どこかの島国の総理大臣は、紅茶を飲んでいてステイホームとやっていたが、どちらの首相についていきたいかと思うと、自分はやはりアイルランドの首相の方が立派だと思う。今さら、国籍を変えるわけにはいかないので、そうは言っても日本にとどまらざるを得ないが。
ヤンの考えも非常に合理的である、強敵とはなるべく戦わない。もちろんラインハルトは強敵だが、気力体力も温存していかなければならない。そのために、ミッターマイヤーとロイエンタールとは、なるべく戦わない、というのも戦術である。スポーツでは、勝ち方も問われるが、命を懸ける戦争では勝ち方いこだわっている余裕はない。
ビジネスにおいては、避けた方がいいマーケットはあるだろうし、避けた方がいい顧客もある。問い合わせに来たからと言って、全部顧客にしなければならないわけでもない。顧客にしたい相手だけ、顧客として対応すればいい。別に顧客なんて神様でも何でもない。ただの人なのだ。誰と仕事をしても同じ、ではない。顧客にしたい人を顧客にする、そしてきちんと対応するのが一番だ。顧客にしたくないと思う人を顧客にすると、たとえ最終的にお金になっても、著しくエネルギーと時間を消耗することは明白だ。
(教訓)
〇リスクを負うリーダーこそ、ついていきたいと思うものだ。
〇避けた方がいい顧客は避けた方がいい。この人のために仕事をしたいと思う人だけ、顧客にすればいい。問い合わせが来たからと言って、全ての人を顧客にする必要はない。