「文(ふみ)開く衣の袖は濡れにけり 海より深き君が美心(まごころ)」
(解説)
海を題材にするのは、やはり土佐出身であるということもあるだろう。上記の文章をもう少し平易な言い方をすると「開いた手紙の文面に、着物の袖はぬれたのか。海より深く美しい、貴方の誠意によって」ということ。1863年3月頃の手紙と言われている。そして手紙の相手は姉の乙女である。
姉上の真心は、自分が海に抱く志よりも深いと言っている。そうして姉の深く美しい真心で涙があふれ、きっと手紙を濡らしているのではないかと歌ったのだ。
龍馬が1862年に脱藩し、その後、勝海舟と面会。勝海舟の尽力で1863年に龍馬の脱藩の罪が釈面され、その頃の手紙と思われる。そして、勝海舟の進めていた海軍操練所の設立のために奔走する。ちなみにその後の1863年5月頃の姉への手紙では「この頃は軍学者勝麟太郎大先生の門人になり、ことの外かわいがられ候・・・すこしエヘンに顔をし、ひそかにおり申し候。エヘン、エヘン」と近況を知らせている。
どんなに遠く離れていようと、今の家族に対しては近況を報告するくらいの余裕は欲しいものだ。起業家の中で、稀に借金を抱え、夜逃げをして、そのまま家族と音信普通の人もいなくもない。仮にそうだとしても、元気にやっているくらいの一言は伝えないと。以前、地方で事業を失敗し、現在、東京でホームレスをやっていて、家族と連絡を取っていないという人の話を聞くと非常に切ない気持ちになってくる。
どんなことがあっても起業家は逃げてはいけない。近況を知らせるだけでも進捗を伝えているわけだから、自分に対する一種のプレッシャーにはなるはずだ。少しぐらいプレッシャーのある中で仕事をした方が、本気になれるというものだ。逃げたくなるような起業地獄を作っている金融機関の責務は大きい。
[教訓]
〇起業家はたとえ遠く離れていたとしても、家族に近況を知らせよ。
〇報告することは、自分に対する一種のプレッシャーになる。