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選択と集中、多角化、どちらが有効か?

故に人を形せしめて我に形無ければ、即ち我專まりて敵分かる。我專まりて一と為り、敵分かれて十と為らば、是れ十を以て其の一を攻むるなり。

(現代語訳)

敵の実態を明らかにして、自軍の形を隠せば、こちらは力を集中できる。敵はこちらの姿を求めて兵力を分散させなければならない。こちらは兵力を一にしたままで、敵の兵力が十隊に分散させれば、こちらは十の力で、十分の一になった敵兵力を攻撃できる。

(解説)

敵に戦略を見せないわけではないが、経営資源を集中する方法がある。選択と集中という。但し、選択する事業を見誤るとかえって失敗する。自社が本当にその事業に強みを持っているかという視点の他に、その事業に集中することが、トレンドに合致するのかどうかがポイントだ。コア事業だから、老舗だから選択し、ノンコア事業だから他者へ売却するという安直な選択は最善策とは言えない。

いくら自社に強みがあると言っても、将来没落していく斜陽産業に経営資源を投下してしまっては、自殺行為に他ならない。しかも近年は海外企業という不確定要素も入ってきている。特に日本の強みであったモノづくりが、新興国企業の隆盛のために、必ずしも選択と集中にふさわしい事業かどうかの判断を難しくしている。

また、日本で選択と集中を難しくしているのは日本の雇用慣行にある。会社にとって雇ったら最後、辞めさせづらくなっていて、労働者の権利を守る行為が、逆に労働者の首を絞める結果となっている。会社が従業員を辞めさせやすかったとしたら、氷河期世代の非正規雇用の問題もここまで状況を悪化させなかったであろう。

選択と集中の対象となる経営資源は、人、モノ、カネ、情報であるが、そのうち人の移動が最も難しい。給与を下げないで新規事業へ異動させることは経営者にとって至難の業である。しかも一度給料を上げると、簡単には下げづらい。日本で選択と集中が効果を高めるためには、経営者のトレンドの読みもあるが、雇用慣行の抜本的改革が必要となってくる。

多角化は資源の無駄遣いに見えて、実は事業リスクを下げている可能性も否定できない。どの事業がこれからのコア事業になるのか、じっくりと時間をかけて見極めているということもできるのだ。一世紀以上存続している会社も、江戸時代や明治時代から一つの変わらぬ事業を行ってきたという例はほとんどありえない。時代に応じて、コア事業というのは変遷せざるを得ない。

上記のように相手が目に見える敵であれば選択と集中はすべきともいえようが、経済という、相手が見えない敵と戦っている以上、無駄な多角化は避けるべきだが、ドラスティックな選択と集中をすべきときは、経営者の胆力が試されるともいえる。経営者が経済のトレンドが見えたときにのみ、選択すべき戦略と言える。

[教訓]

〇相手が見える敵であれば、選択と集中は効果的な戦略。

〇相手が見えない敵であれば、多角化も決して捨てがたい戦略。

この記事を書いた人
経営学博士。経営学は座学より実学をモットーに大学院在学時より、サラリーマンで修業。一部上場企業の財務、メガバンクでの不良債権処理、 上場支援、上場後の投資家向け広報、M&A、事業承継等を経験。 数千の経営者と身近に接することが多く、数多くの成功例や失敗例を見てきた。 一人でも多くの成功者を輩出することが自らの天職と考え、現在は独立し、起業家に対して、ファイナンスやマネジメントまわりのサポートを行っている。 起業家モチベーター。
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