常山蛇勢と呉越同舟、その違いとは

故に善く兵を用うる者は、譬えば率然の如し。率然とは、常山の蛇なり。其の首を撃てば則ち尾至る。其の尾を撃てば則ち首至る。其の中を撃てば則ち首尾倶に至る。敢て問う、兵は率然の如くならしむべきか、と。曰く、可なり。夫れ呉人と越人と相悪むや、其の舟を同じくして済りて風に遇うに当たりては、其の相救うや、左右の手の如し。

（現代語訳）

上手に軍隊を運用する者の有様は、例えば「率然」のようなものだ。率然とは常山に住む蛇の名前である。その首を討とうとすると、直ちに尾が反り返って助けに来る。その尾を撃とうとすると首がかみついてくる。体の真ん中あたりを撃とうとすると首と尾の両方が襲ってくる。謹んでうかがう。軍隊も率然のようにすることはできるのか。できる。そもそも語の国の人とその隣国の越の人とは互いに憎みあう間柄だが、それでも同じ船に乗って川を渡る際、強風にあって船が転覆しそうなときは、日ごろの憎しみを忘れてお互いに助け合う様はまるで左右の手のようである。

（解説）

ここには中国の故事成語が二つ含まれている。

常山蛇勢（じょうざんだせい）

先陣と後陣、左翼と右翼などが相互に連絡し、攻撃にも防御にも助け合う陣法。前後左右どこにも死角や欠点がないことを意味している。

呉越同舟（ごえつどうしゅう）

敵対する者同士や、仲の悪い者同士が同じ場所に居合わせることのたとえ。また、そのような者同士でも、同じ困難や利害のために協力することのたとえ。

リーダーとは上記のような組織を作らなければならないということを説いている。人には死角や欠点はいくらでもあるだろうが、組織で個々人の死角や欠点をカバーすればよい。ある人の苦手なことは別の人の得意なことでもある。ある人の犯したミスは、同じ組織の別の人がカバーすればよい。

また、組織内で価値観の異なる者同士であっても、組織の利益を上げるという共通目標のために同じベクトルを向かせることは可能だ。あるいは組織外で、普段は競合他社ではあれども、そのライバル同士が手を組んでキャンペーンを組めば、顧客から見ると非常に新鮮に映る。それは売上増にも期待できるのである。つまり普段は競合同士でも共通の利害関係に立てば、手を組んでより大きなことができるということなのだ。

[教訓]

〇ある人の苦手なことは別の人の得意なこと。個人では欠点となることも組織では欠点にならない。

〇価値観が違おうと、普段は競合相手であろうと同じ共通利害に立てば手を組んでより強力なことができる。