リーダーには知恵袋が必要だ

それ三軍の行くや、必ず賓客ありて、得失を群議し、もって将用に資す。詞、県流のごとく、奇謀測ることなく、博聞広見にして、多芸多才なるものあり。これ万夫の望なり。引きて上賓となすべし。猛きこと熊虎のごとく、捷きこと騰猿のごとく、剛きこと鉄石のごとく、利きこと龍泉のごときものあり。これ一時の雄なり。もって中賓をなすべし。多言にしてあるいは中たり。薄技小才なるものあり。常人の能なり。是引きて下賓となすべし。

（現代語訳）
軍団の編成に際しては、必ず幕僚をおいて作戦計画の得失を検討し、将軍の参考としなければならない。幕僚には高級、中級、下級を設ける。
(1) 淀みなく弁じたて、奇謀湧くが如くにして知らざることがなく、多芸多才の人物がいる。このような人物は万人のあこがれである。招いて高級幕僚とせよ。
(2) 熊や虎のように荒々しく、岩を駆け上る猿のようにすばしこく、鉄石のように強く、名剣龍泉のように切れ味鋭い人物がいる。このような人物は一方の雄である。招いて中級幕僚とせよ。
(3) おしゃべりでたまにはまともなことを謂うが、格別の技能も才能もない。並みの人物であるから、下級幕僚とせよ。

（解説）
格別の技能も才能もなく並みの人物でも下級幕僚にするのか、というのは突っ込みどころであるが、たまにはまともなことを言うから置いているのではないだろうか。ちなみに幕僚とは、指揮官を補佐する高等武官又はそれに準ずる者をいう。

リーダー自体は意思決定をする役職であって、全知全能の神様ではありえないから、いくらレーダーを張っていても、全ての情報を得ることはできない。そこで幕僚という一種の知恵袋が情報を収集・分析する役目を担う。彼らは意思決定を行う部隊ではなくて、あくまでもリーダーに対して情報を提供する役目である。彼らの職責は大きい。時には彼らの考えのままにリーダーが誘導され、意思決定をすることになるからである。

21世紀初頭のアメリカのイラク攻撃も、CIA（中央情報局）の提出してきた資料をもとに当時の元ブッシュ大統領が攻撃を決定したわけだ。まあ、どんな情報が出てこようと都合のいいように曲解したに違いないが。いずれにせよ、その情報一つで戦争を起こしてしまうほどの重要な役割を担うのが幕僚である。

奇謀を編み出す能力がある人、そして切れ味鋭い意見を謂う人、あとはたまにまともなことを言う人もいる。こういった強弱のあるチームの方が、より的確な情報分析ができるのであろう。不思議と優秀な人だけを集めても、本当に優秀な人は2割で、残り8割があまり優秀ではなくなってしまう。最初から8割を優秀でない人で固めておいても変わらないと思われる。

[教訓]
〇リーダーは知恵袋を置け。
〇頭脳明晰な人、鋭い意見を言う人、たまにまともなことを言う人というメリハリのある組織が、より的確な情報分析を行う。