世界の歴史を題材とした起業家応援メディア

トラブルを未然に発見した人にも報奨を

すなわち難を易に図り、大を細になし、先ず動きて後に用い、無刑に刑するは、これ用兵の地なるものなり。師徒すでに列し、戒馬交いに馳せ、彊弩僅かに臨み、短兵また接し、威に乗じて信を布き、敵人急を告げるは、これ用兵の能なるものなり。身もて矢石に衝い、勝ちを一時に争い、成敗未だ分かれず、我傷つき彼死するは、これ用兵の下するものなり。

(現代語訳)
用兵にはその巧拙に応じて三段階に分けることができる。
(a) 最善の用兵:困難を未然に防ぎ、事態を大事に至らせぬうちに解決する。先を読んで手を打ち、刑罰の適用があっても、それを実際に適用する必要がないようにする。このような用兵が最善である。
(b) 中程度の用兵:敵と相対して布陣し、軍馬を走らせ、強い弓を射かけ、敵陣に迫る。相手は味方の勢いに恐れをなして、浮足立つ。これは中程度の用兵である。
(c) 最低の用兵:将軍が自ら陣頭に立って、敵の矢を浴び、目先の勝ち負けに追われる。敵味方とも多数の死傷者を出し、勝敗の帰趨は定かではない。これは最低の用兵である。

(解説)
孫子の兵法由来だが、「戦わずして勝つ」のが上策と言われる。ビジネスの世界では、トラブルを未然に防いで、トラブル対応をしないのが上策と言えるだろう。しかし言うは易く行うは難しである。何故ならば、トラブルが見えていないときにどう対処するかであるからだ。道路で石につまずいてこけることがあるが、石が最初から見えていれば、それを避けようとする。見えていないからこけるのである。人間は見えていないことに対処するのが難しい。

ある程度事業を営んでいけば、トラブル対応のノウハウが組織にたまっていく。同じ人が同じ間違いをしたら、緩慢以外の何物でもないが、同じ組織でも別のスタッフが対応していると同じトラブルを起こす可能性は否定できない。そこでトラブルマニュアルを文書化することになる。

ここで、トラブルが起きたときに、原因を正しく分析していないと、対策は「今後はよく確認する」「周知徹底する」、お客さまには「二度とのこのようなことがないようにします」というお決まりの文句が飛び出すことになる。それ故、原因の分析を行ってその原因となる事象をなくしてしまうのが良策となる。

もう一つ、今表れていないトラブルの対処はどうしたらよいのだろう。これは過去の失敗情報やトラブル情報を基に、様々なトラブルの可能性を発想して、別のトラブルの種を見つけることだ。

ハインリッヒの法則というものがあり、この法則は「1件の重大な事故や災害の背景に29件の軽微な事故があり、その背後には300件のヒヤリハットがある」という考え方である。つまりヒヤリハットの向こう側に重大なトラブルの可能性が隠されていると言える。この日常的なヒヤリハットを収集する仕組みを作り上げるのだ。あまり自分のミスは恥ずかしいから報告したがらないが、ここはそういったミスの報告をしたスタッフを、未来のトラブルを防いだ功労者として、報酬を渡すインセンティブ制度を設けるべきである。

トラブルに対処しないのが上策なのだから。

[教訓]
〇トラブルの原因をきちんと追究しないと、「今度は注意します」で終わってしまう。注意しなくてもトラブルが起きないように仕組みを作れ。
〇まだ起きていないトラブルは、過去のトラブルから類推するしかないが、トラブルになっていないスタッフのミスを報奨金付きで集める仕組みを作れ。彼らは未来のトラブルを防いだ功労者である。

この記事を書いた人
経営学博士。経営学は座学より実学をモットーに大学院在学時より、サラリーマンで修業。一部上場企業の財務、メガバンクでの不良債権処理、 上場支援、上場後の投資家向け広報、M&A、事業承継等を経験。 数千の経営者と身近に接することが多く、数多くの成功例や失敗例を見てきた。 一人でも多くの成功者を輩出することが自らの天職と考え、現在は独立し、起業家に対して、ファイナンスやマネジメントまわりのサポートを行っている。 起業家モチベーター。
SNSでフォローする